カップヌードルのフタ止めシール廃止に思うこと。

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 6月4日、日清食品カップヌードルのフタ止めシールを廃止することを発表した。世界的なプラスチックごみ削減の流れに乗ったものらしい。大変便利な仕組みだったので惜しまれるのだが、実のところあれそんなに必要ではないのだ。調理中に蓋がぺろんと開いたところでお湯が極端にぬるくなって調理に失敗しるということもない。確か昔再利用可能なプラスチックのカップと詰め替え麺のリフィルを発売したとき、蓋をしないで調理することが推奨されていた記憶があるくらいだ。まあめっちゃ気温が低いとかいう場合もあるだろうから、蓋できたほうがいいけどね。

 ところであのフタ止めシール、昔はフタ止めだけじゃなくて、開封の役目も果たしていた。

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初期蓋止めシール1

 シュリンクラップの底の部分にU字型の切れ込みがあり、フタ止めシールはそれを覆うように貼られていたのだ。
 これをはがすことで、ラップは大きく切り裂かれ、ラップの開封が容易になる仕組みだ。

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フタ止めシールをはがした図

 この方式の弱点として、シュリンクラップの破れた欠片がフタ止めシールにくっついてきてしまうというものがあった。このままフタ止めに使うとラップを挟むことになるので、接着力が弱くなり、ぺろんとフタが開いてしまうことがあった。シールからラップの欠片を綺麗にはがすのは存外難しく、手油がつくとそれも接着力を弱める結果になる。これが解決されたのはカップの素材が発泡スチロールから2008年に断熱紙に変更されてからだ。

 カップヌードルは1971年に発売されたが、当時からかなり最近まで発泡スチロール容器が用いられてきた。熱湯を入れる関係上、断熱性の確保は重要で、その能力において、発泡スチロールに勝るものはなかった。これも初期の頃は特許を取られていたのか、薄くて丈夫なスチロール容器を作るノウハウがなかったのか、日清以外は追随できず、サッポロ一番カップスターなどはプラコップに波型の板を張り付け、段ボールみたいな中空構造で熱を遮断することを余儀なくされた。そして、この発泡スチロール製のカップは、底に隙間がなかったのだ。

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スチロールカップと紙カップ

 現在の断熱紙カップを使用したカップヌードルでは、底に指先を突き刺せば容易に穴が開き、ラップを破ることができるが、スチロールカップの時代は隙間がほとんどなく、指で穴をあけるのがほぼ不可能だった。日清食品は、カップヌードルの容器を紙に変更する際、底に隙間を作り、フタ止めシールの下の切れ込みを廃止した。なのでこれ以降は、シールをはがしてもラップの欠片がくっついでくることはなくなったのである。

 お分かりだろうか。このとき、フタ止めシールの二つの機能、ラップ開封と、フタ止めのうちの一つが消滅していたということに…

 カップヌードルシュリンク包装は1971年の発売時には行われていたと記憶しているのだが、フタ止めシールが登場する1984年以前、どうやって開封していたか記憶がない。たぶんミシン目があって左右に広げる形が、テープが巻かれていてそれを引っ張る形だったと思うのだけど。どっちにしても開封に苦労するような仕組みではなかったと思うのだ。

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フタ止めシール以前の開封

 ではそもそもなぜフタ止めシールが登場したのかという話だが、これ、グリコ・森永事件の影響ではなかったかと思う。1984年に江崎グリコ社長が誘拐された事件にはじまって、お菓子に青酸化合物を注入されるという事件が起こり、食品メーカー各社が厳密な封印を施し、開封されたら一目でわかるシールや、簡単に開けられない包装などを採用せざるを得なくなった。要するに開封したら戻せない、注射器などで穴をあけたらわかるというのを各社工夫したわけだ。カップヌードルの当時の開封方法を覚えていないのであれだけど、ミシン目やテープ方式だと隙間から毒物を入れられるかもと恐れてあのフタ止めシールを採用したのではないかなあ。

 考えてみると、カップヌードルの紙カップ化も、一時期発泡スチロールが有害な環境ホルモンを出すのではと疑われたことがきっかけじゃなかったろうか。確か同じような時期に、マクドナルドがハンバーガー容器を発泡スチロールから紙に変更してるよね。

 そして今プラごみ削減のために、開封補助の意味がすでに失われたフタ止めシールを廃止する。50年の歴史がものすごく感じられる話だよねえ。