カップヌードルはフォークで食べる洋食で、ラーメンではなかった

 カップ麺というジャンルを作った日清カップヌードル。この開発物語は各所で語られているが、チキンラーメンアメリカに売り込もうとしたらアメリカにはドンブリがなく、現地の人が麺を割ってマグカップに入れ、お湯を注いていたのを見て、安藤百福カップに最初から入っているラーメンを考案したと言われている。もともとアメリカ向けを考えて作られた商品だったわけだ。というわけで、あれが登場した当初、カップヌードルは箸で食うラーメンではなかった。
 覚えているだろうか、カップヌードルが登場した当時、店頭販売よりも自動販売機での販売が主流だった。そして、カップヌードル自販機には透明プラスチックのフォークが入るポケットがついており、そこにぎっしりフォークが詰め込まれていた。そもそも日本国内向けにも、なぜか縦長のカップで販売し、フォークで食べることを強制していたのだ。これはあきらかに、「従来のラーメンではない、西洋風のフォークで食する料理である」というメッセージを打ち出していたのだ。そもそも、カップヌードルの具材は、あれいままでのラーメンの具材と全く違う。ナルトもメンマもチャーシューもない。エビと卵と謎肉である。1970年代にカップヌードルを食した僕らから見てもあの謎肉は謎だった。肉とは思えない食感と味から、「あの肉は石油から合成してるらしい」という都市伝説が生まれたくらいだったのだ。最近大豆ミートの類であったらしいことが明かされて、「いや、時代の50年先をいっていたのか」と驚いたくらいである。

 なお、カップヌードル専用フォークは、端っこの歯一本だけ途中から太くなっていた。これは、お湯を注いだあとに紙のフタを閉じた際にこの太い歯、つまり間隔が狭くなる部分で蓋を刺し貫くことで、蓋を密閉する役割があったらしい。当時はまったく知らなかった。
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 そもそも、カップヌードルの商品名からして、当時日本ではほとんど聞かれなかった「ヌードル」という単語を使用して、正体不明感を出していた。小学生だった僕らは、「なに?ヌード?エロイの??」という感じだった。日清食品はとにかく「なんだかよくわからんが西洋っぽいカップヌードル」として宣伝していた気がする。実際、1970年代の間はカップヌードルをみんなフォークで食べていた。ほんとにフォークで食べるのが当たり前だったんである。あの細いカップは箸を突っ込むには今までの間隔では扱いにくい雰囲気があった。まあ、それも宣伝によって作られたイメージで、今ではみんな普通に箸で食ってるのだから、食えないわけではないのだけどね。なんだかあの透明フォークで食べるものだとずーっと思い込んでいたのだ。CMでもフォークで食べるシーンが映し出されている。
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 やがてカップヌードルがフォークの添付をやめ、カップ麺は箸で食うのが普通になってフォークを忘れかけた頃、小学生たちにおやつカンパニーの「ブタメン」が人気になる。学校周りの駄菓子屋で売られるこれは、子供用にサイズを小さくしたカップ麺で、透明プラのフォークが添付されていた。この時期にフォークが蓋止めに使えるという話が広まる。20年だか30年の空白を経てフォークの役割復活である。f:id:juangotoh:20210821211323p:plain

 なんか日清カップヌードルも、アニバーサリー企画かなんかでいいから、フォーク復活してくれないものか。