Instagramと正方形写真の歴史

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 Instagramの写真は基本正方形である。最近は長方形フォーマットの投稿もできるようになっているが、それはスマホのカメラで予め撮影しておいた写真に限られ、リアルタイムで撮影する写真はいまでも正方形に限定されている。この理由についてだが、コダックのインスタマチックや、ポラロイドのインスタントカメラをリスペクトした結果と言われているらしい。

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 インスタマチックは、正方形画角のカートリッジ式125フィルムを採用したカメラで、35mmフィルムにくらべて取扱いが容易であり、子供や女性向けに安価なモデルが各社から販売されていた。発売は1963年だが、1970年代後半には姿を消していた様に思う。125フィルムをさらに小さくした110カートリッジフィルムを使うカメラがその後流行ったけど、これは正方形画面ではなかった。

 ポラロイドのインスタントカメラは、フィルムを引き伸ばしてプリントするのではなく、その場で完成プリントが出来上がるもので、メジャーな規格ではおおむね8cm四方の正方形に写る。なお、一般的なポラロイドフィルムは、正方形の画面の下に、一方向だけ大きな余白がある。この部分に現像液が仕込まれていて、ロールで排出される際に撮影面に押し出されて現像される仕組みになっている。なので撮影面が正方形なのはひょっとするとこの余白を作るためだったのかもしれない。

 

 インスタマチックがなぜ正方形だったのかについては、これが登場した当時、二眼レフカメラが普及しており、この形態のカメラの一般的な画面が6cm×6cmの正方形であり、カメラを使う人々が正方形画面に慣れていたという事があるらしい。戦前から35mmフィルムを使うライカなどのコンパクトカメラは製造されていたが、精密な35mmカメラは比較的高価であり、単純な二眼レフはインスタマチックが登場した1960年代、民間に随分普及していた。そもそも1900年にコダックが発売した「ブローニー」というカメラが6cm×6cmというフォーマットを採用しており、フィルムカメラの歴史の初期から正方形フォーマットは結構主流の一つだったのだ。

二眼レフで撮影した写真。Flexaret V, KODAK PORTRA400VC

 

 ではなぜすたれてしまったのか。これはおそらく35mmが普及しすぎてしまったのだと思う。120フィルムで6×6の写真を撮ると、一本12枚しか撮れない。35mmなら36枚まで普通に撮れる。中版フィルムの画質の良さも、フィルム自体の改良で35mmで十分な解像度を得られるようになる。カメラ自体小型にできるため取り回しが良い。インスタマチックがでてきた頃、2眼レフを使っている人も、使っていた人も多かったかもしれないが、すでに35mmが普及し始めており、子供のための入門カメラ的に売れたものの、主流になることはなく消えていった。ポラロイドに関しては、その場で確認できるという利点があったために特定用途で使われ続け、デジカメの登場まで寿命を延ばすことになったが、今はすでにポラロイド社自体がデジカメにプリンターを内蔵する機種に切り替えてしまい、極めてマイナーなものになっている。

 

 35mmフィルムは映画用のものを写真に流用したのが始まりだが、これを使ったライカが24mm×36mm、長方形画面のカメラを作った。このサイズが現代まで踏襲されている。まあ、人の目は左右2つあって、基本横の視界が広いので、画角が横長であるのは一応合理的なんである。

 

 で、Instagramがかつてわりと普通に使われていたけどいまではほぼ消え去った正方形写真を復活させたのは、一種のノスタルジーであるわけで、これはあのアプリが最初から装備していた各種レトロフィルム調フィルター群によっても明らかだ。ただ、正方形画面には、実際にスマホにおいて非常に有利な点がある。スマホというのはなまじ縦にしても横にしても画像をフィットさせて表示するものだから、撮影時の方向と違う向きにすると、写真がずいぶん小さくなってしまうのだ。ところが正方形なら、縦にしようが横にしようが大きさが変わらない。

 

 ところで、富士フィルムはポラロイドと同じようなインスタントカメラを出しているが、後発であったこともあってか、画面が正方形ではなかった。ところが、2017年春に、新たに正方形画面のフィルムとカメラを販売するという発表があった。

instax.jp

 これはひょっとすると逆にInstagramからインスタントカメラへの影響が起きたということなのだろうか。