米中対立がRISC-V開発を促してるのだろうか。
RISC CPUの元祖はIBMの801かもしれないが、MIPSやARMに繋がる現代の多くのRISCアーキテクチャの大本はカリフォルニア大学バークレイ校のBerkeley RISCだろう。
RISC-VのVは「ファイブ」であり、バークレイ校で作られた5番目のRISC命令仕様だ。この仕様はオープンソース化され、RISC-Vファウンデーションに移管されて普及を目指している。仕様がオープンであるため、この命令セットのCPUを誰が作ってもライセンス料などは発生しない。主にその要因で結構注目を集めているし、多くの企業や組織がRISC-Vファウンデーションに参加、なんらかの商品化を目指している。とはいえ、RISC-Vのいい点はなにもオープンであることだけではない。
既存のCPUは、x86にしてもARMにしても、長い年月の積み重ねで命令数は増加し、回路は複雑化している。ARMも64bitモードの命令セットはそれ以前のものと大きく変わってしまっている。互換性を保ちつつ高性能化するためにはそういう変化は避けられない。既存の主流CPUは、16ビットや32ビットの頃に基本設計がなされたものなので、互換性を保ったまま64ビットの時代に対応するのが難しかったのだ。RISC-Vは最初から32,64,128ビットでの使用を考えて設計されている。128ビットの仕様の詳細はいまだ決定されていないが、命令の拡張をあらかじめ決めてあるので、おかしなことになる見込みは少ない。
組み込みのマイクロコントローラから、HPCまで広くカバーするように設計されており、命令数も整数用の最小限のものから、単精度、倍精度実数、MMU関連などをオプションで設定しており、メーカーが独自の命令を追加する余地もきちんとある。BSDライセンスなので、そもそも勝手に拡張してもかまわない。まっさきに採用をアナウンスしたのがハードディスクやSSDを作っているWDであり、組み込み用途としてのものであったのもうなずける。現代のコンピューター周辺機器は基本インテリジェントなものであり、内部にCPUを持っている。こういう部分に使う比較的小規模で、特定用途のCPUというのは、WDのようなメーカーなら機器のために必要な命令を追加した自社製のものを使いたいということがあるだろう。これをARMやIntelに言ってライセンスをもらうというのはあまり現実的ではない。ただ、組み込み用マイクロコントローラだけに使うには、RISC-Vの仕様全体は大きい。小さくもできるがそれだけではないわけで。スマホやパソコン、スパコンまでサポートする気満々なのである。この分野はARMやIntelの牙城であり、そうそうシェアを奪えるものではない。なお、日本の場合かつての大手半導体メーカーがCPUジャンルを統合したルネサスが各種コントローラーを作っていることもあり、日本企業のRISC-Vへの注目は組み込み向け含めてもなかなか出てこなかった。
RISC-Vファウンデーションが決めているのは、命令セットであり、具体的なCPUの設計ではない。ハードウェア記述言語で作成したリファレンス実装はあるし、関係者が起業したSiFiveが実際に動作するCPUを販売しているが、あくまで初期開発ボード的な商品でしかない。また、ARMのようにGPUを統合してそこそこ高性能な3Dグラフィックまでこなすものは出てきていない。要するにスマホやパソコン用としてはいまだ使い勝手の良くない初期段階という感じだった。最近までは。
米国トランプ政権が中国を危険視し、ITジャンルでの各種規制を強めた結果、ARMやGoogleの最新技術を一時的にも得られなくなるかもしれなくなった中国だが、その途端雨後の筍のようにRISC-V関連の発表や商品化が相次いでいる。
以前から中国企業が多数RISC-Vファウンデーションに参加していたので、たまたま今の時期にその成果が出てきたのかもしれないのだけど、米中対立がこれらの発表を急がせたという部分はあるのじゃないかなあ。その結果、こんな面白そうなガジェットが入手できるようになっていたりする。
fabcross.jp
64ビットRISC-V2コアにニューラルネットワークアクセラレータを内蔵したCPUを搭載したカメラ付きの小さなアイテム。3000円くらいでこんなの買えるんだぜ。
少なくとも、MIPSやIBMのPOWERアーキテクチャがオープン化するなんて話が出てくるのは、RISC-Vが人気だからだろう。ちょっと前までの日本では、RISC-Vといっても「どうせオープンってもハードウェアはソフトみたいにはいかないぜ、IntelやARMがある以上どうにもならん」って感じだったと思うのだけど、無視できない勢力になりつつあると思う。