Win2DでUWPアプリに日本語縦書き

MicrosoftがGititHubで公開しているWin2Dというライブラリ、Direct2DをUWPのCanvasで簡単に使えるようにしたものらしい。ちょっと試してみた。

' 空白ページのアイテム テンプレートについては、http://go.microsoft.com/fwlink/?LinkId=402352&clcid=0x409 を参照してください
Imports Windows.UI
Imports Microsoft.Graphics.Canvas.UI.Xaml
Imports Microsoft.Graphics.Canvas.Text


''' <summary>
''' それ自体で使用できる空白ページまたはフレーム内に移動できる空白ページ。
''' </summary>
Public NotInheritable Class MainPage
    Inherits Page
    Sub CanvasControl_Draw(sender As CanvasControl, args As CanvasDrawEventArgs)
        Dim textFormat = New CanvasTextFormat()
        Dim s As String = "こんにちは、" + vbCrLf + "私は後藤寿庵です。" + vbCrLf + "This is a pen."
        textFormat.FontSize = 24
        textFormat.Direction = CanvasTextDirection.TopToBottomThenRightToLeft   '縦書きを指定
        textFormat.VerticalGlyphOrientation = CanvasVerticalGlyphOrientation.Stacked '英字グリフを正立に
        args.DrawingSession.DrawText(s, 100, 100, Colors.Black, textFormat)
        textFormat.VerticalGlyphOrientation = CanvasVerticalGlyphOrientation.Default '英字グリフをデフォルトに
        args.DrawingSession.DrawText(s, 250, 100, Colors.Black, textFormat)
        textFormat.Direction = CanvasTextDirection.LeftToRightThenTopToBottom   '横書きを指定
        args.DrawingSession.DrawText(s, 270, 100, Colors.Black, textFormat)
    End Sub
End Class

なぜVBなのかといえば、慣れてるから。まあこの程度のコードならそのままC#に置き換えるのも難しくないだろう。
短いので説明の必要もないと思うが、何をやってるかといえば、CanvasTextFormatという、テキストの属性とかを定義するオブジェクトを作り、そこに行方向(CanvasTextDirection)とか、縦書き時のグリフの向き(CanvasVerticalGlyphOrientation これは漢字などのグリフではどちらでも変わらず、英数字の表示に影響する)を設定し、適当な座標にDrawingSession.DrawText()で描画しているだけ。フォントファミリーやサイズ、ウェイトなんかもCanvasTextFormatのプロパティとして簡単に設定できる。
結果:
f:id:juangotoh:20170613190819p:plain
確かに簡単だ。まあ、縦中横とかルビとかを実現しようと思ったらこれじゃ駄目なので、DrawText()じゃなくてDrawTextLayout()を使い、InlineObjectを定義するとかなんとかする必要は出てくると思うけど。

Direct2Dについての記事なのに、地味なテキストを表示するだけって…

アニメ「正解するカド」の、CGと手描きと歴史

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 「正解するカド」では、主要キャラクターは3DCGだが、登場頻度の低いキャラは手描き作画である。これ、頑張ってコスト計算してるんだろうなあ。人物の3Dモデルを制作するのはそれなりに手間と時間がかかるが、できてしまえばモデルの配置とモーション付けは手描きより早くできてコストを抑えられるだろう。これは同じモデルを使用する時間が長いほど安くなるはずだ。それに対し手描きの場合登場するたびにすべての動きを描かなければいけないので、コストがかかる。だたし、モデリングにかかる費用と時間を考えると、登場頻度の低い人物に関しては手描きのほうが安上がりになるだろう。

 

 1990年代末あたりから、アニメにCGが使用され始めたが、当初は宇宙船のような、ディティールが多く、基本的に変形せず、方向転換や移動というシンプルで描くのは大変だけどCGなら如実に楽で効果的になる部分に限られていた。人間のモーション付けみたいな作業がそれなりにこなれてきたあとも、しばらくは手描きでは大変な、巨大ロボットなどを中心に使われていた。2007年の「デュエル・マスターズ ゼロ」などで、人物もCGになったが、トゥーンレンダリングがまだ不気味で、顎を上げたシーンなどで違和感が強かった。このへんは幼児向けのシンプルなキャラクターであることもCG化に向いていたのだろう。

 2000年代には、劇場作品などでフルCG作品がいくつも登場するが、この頃はおそらくTVに比べて予算をかけられる劇場映画だからこそフルCGができたのだろう。まだCGはカネがかかったわけだ。

 

 2010年代に入ると、TVでフルCG作品がそれなりに多くなってくる。「シドニアの騎士」あたりになると、CGキャラの不気味さもだいぶ緩和されてくる。ポリゴン・ピクチュアズや、サンジゲンといった、2Dアニメの中のCGパートを制作していた会社が作品元請けとなって制作されるので、その過程でためたノウハウが活かされているのだろう。

 

 「正解するカド」は東映アニメーション初のフルCGによるTVシリーズと言われている。最初に書いたように一部のキャラクターは手描きなので、完全なフルCGではないが、ほとんどCGではある。手描きアニメの老舗である東映アニメーションが、ここでCGアニメに本格的に取り組み始めたわけで、将来日本製アニメの中心がCGになる分岐点となるのかもしれない。東映アニメーションよ、どうか正解されたし。

19世紀物理学のエーテルとは

 19世紀、ニュートン力学が物体の運動を過不足なく記述し、電磁気学マクスウェル方程式が過不足なく記述していた。物理学は「もうすぐ完成する学問」と思われていたのだ。この時代、光が波動であるというのは常識で、波動であるなら波を伝える媒質が存在するはずであると思われていた。水面に石を落とせば円形に波が広がるし、音は空気中を伝わる波動である。光もそれを伝える物質があるだろうと、当然思われ、それはエーテルと呼ばれていた。

 

 一般的に、波動を伝える媒質の性質は、波の周波数や伝搬速度が大きいなら、高密度で固体に近い性質を持たなければいけない。当時すでに光の速度の検証は行われており、秒速30万kmという、すごい速さで空間を伝わることがあきらかだった。そうすると、光を伝えるエーテルは鋼鉄より硬い物質でなければいけなかった。また、光が宇宙、空気中、水中、ガラスも関係なく伝わることから、あらゆる物質の中に「染み込む」非常に細かくどこにでもある物質でなければいけなかった。考えてほしい。宇宙のどこにも染み込んで存在し、鉄より硬い物質である。そんなものがあったら、惑星の公転運動もなにんもかも阻害されて停止してしまうだろう。なので、エーテルは光速に近い速度でだけ非常に硬くなるが、ゆっくり動く物質にとっては真空と同じくらい抵抗がないと定義される。かなり無理のある設定である。だが、当時は当然それが存在すると思われていたのだ。

 

 エーテルは宇宙に静止状態で存在し、その中を恒星や惑星が移動すると考えられた。したがって、エーテルに向かっていくときと、エーテルから遠ざかるときで、光の速度が変わるはずと思われた、地球が公転していることは知られていたので、その進む方向と、それと90度ずれた方向で光の速度を測れば、エーテルに対する地球の速度が測定できる。これをやったのがマイケルソンとモーリーで、結果はどの方向にも光速度は一定だった。方向にかかわらず光速度が一定というのは、異様な話である。新幹線が時速300kmで走ってるとき、駅で立ってる人が測っても、線路に並走してスポーツカーで時速200kmで走ってる人が測ってもどっちも時速300kmだというようなものだ。これをなんとかしようと頑張ったのがローレンツで、彼は高速移動すると距離が縮むとしたのだが、最終的にはアインシュタインが「いや、時間が縮むんだよ」と反則技を繰り出した。光の波を伝える媒質は、エーテルではなく「電磁場」という新しい概念になり、光を伝搬する媒質で、鋼鉄より硬いエーテルというものが不要になったのだ。  

 

 アインシュタイン特殊相対性理論によって、エーテルは追放されたのだが、20世紀初頭のSFではまだ生きていた。あらゆる物質に染み込んで光を伝えるエーテル。ならば、エーテルに染み込むさらに細かく高硬度の物質があればどうなるか。超光速の情報や超光速移動をつかさどる「サブエーテル」である。物理学会で「サブエーテル」という概念が話題に上ったことはないと思う。これはSFがSFならではのセンスオブワンダーを生み出した運動であった。サブエーテルを含めたエーテル宇宙論は、レンズマンなど、20世紀前半のSFで使われ、スペースオペラの衰退とともに忘れられていったが、1980年代末、スタジオガイナックスの「トップをねらえ」で復権する。あれはエーテル風に宇宙船が流される様を描いた超エーテル宇宙論の世界である。

Minecraftのゾンビ肉を「ゾンビーフ」と呼ぶ由来

 

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 Minecraftの敵性MOBであるゾンビを倒したときにドロップする「腐った肉」(Rotten Flesh)。高確率で食中毒を起こすが、空腹ゲージの減りが速くなるというだけで、ライフ回復には使えるので、実は食料供給が難しい砂漠やメサバイオームにおいては意外と有効な食料である。この腐った肉をニコニコ動画のマイクラ実況などでは「ゾンビーフ」と呼ぶことが結構多い。しかし考えてみるとこれはちょっとおかしな話だ。ゾンビを倒して得られる「腐った肉」はどう考えてもゾンビの肉であってビーフ(牛肉)ではない。ゾンビ牛の肉なら「ゾンビーフ」でも良いと思うが、あれは人間のゾンビであり、言ってしまうと「腐った人肉」である。ちなみにMinecraftには牛が存在しており、これを倒して入手できる肉は「生の牛肉」(Raw Beef)である。マイクラには、ゾンビの牛は登場しない。

 

 これについて、

www26.atwiki.jp

Minecraft Japan Wikiでは、「ビーフは牛肉を表すので正確には間違いだが、語呂がいいので使われる」と解説しているが、僕は単に語呂がいいというだけではなく、元ネタがあったと思っている。それは、ニコニコ動画にアップロードされていた「妹が作った痛いRPG」シリーズの「えろえろ監禁病棟」だ。

 この動画では、死体を火葬するのは無駄だとして、ネクロマンサーを使ってゾンビ化し、食肉加工する会社が登場する。この食肉がゾンビーフと呼ばれるのだ。「人間のゾンビを食肉加工し、ゾンビーフと呼称する」定義がここで産まれる。

2010年にアップロードされたこの動画以前に、マイクラのゾンビ肉を「ゾンビーフ」と呼称した例があるのかちょっと確認できていないのだけど、この強引さは、「妹が作った痛いRPG」シリーズならではでないかなあと思う。

 

 「妹が作った痛いRPG」シリーズの作者は「高橋邦子」とクレジットされているが、これが本名かどうかはわからない。というか、どう考えても「妹のせいにしてトンデモないギャグ動画を制作したオタクの作品」だと思われるのだが、非常に面白く、一時期ニコニコでかなりのPVをかせいでいた。マイクラ動画で「ゾンビーフ」の呼称がこの影響で成立したと考えてもおかしくはない。

インスタントラーメンの油

 日テレの「得する人損する人」という番組を見ていたら、インスタントラーメンをいかに美味しく、インスタントじゃないように作るかの勝負をやってて、「そんなに手間や追加食材、調味料増やしたらインスタントラーメン使う意味がねえんじゃねえか?」と思ったのだけど、それはさておき、麺の茹で汁を一旦切れば、麺の油が抜けてヘルシーになるというテクニックを使っていた。確かにカロリーを抑えるという意味ではそうなんだろうけど、ラーメンってもともと油の浮いた食いもんで、油も「ラーメン」の大切な要素じゃねえのかと思ったりした。

 

 インスタントラーメンは麺を油であげるのが基本である。油であげることで、高温で蒸発した水分が麺に微細な穴を開け、これが短時間でお湯が染み込み、3分で茹で上がるという特徴を生み出す。茹でたラーメンに粉末スープを加えればそれだけでいちおう「ラーメン」と呼べるものが出来上がる。つまり麺に染み込んだ揚げ油がスープに戻って「ラーメンの油」の代用をしていたのがインスタントラーメンである。

 さて、1970年代から1980年代にかけて、インスタントラーメンは「ノンフライ」という、揚げない麺を使用するものが流行し、いまも高級品はこの方法の延長で作られている。麺を油で揚げず、熱風などで乾燥させると、微細な穴があかないので茹で時間は長くなる。なのでノンフライ麺は4分とかかかるものも多い。まあこのへんは製造上の工夫で調整も効くようで、ノンフライだからといって必ずしも長くかかるとも限らないが、ノンフライのラーメンの場合、粉末スープに加え、「調味油」という油が付属するものが多い。つまり麺から油が出ないから油を別添しないといけなくなったのだ。油は簡単に粉末にできないので、粉末スープに混ぜて、一つの袋にすることができない。

 

 ノンフライ麺が普及する前に日清の「出前一丁」が「ごまラー油」をつけているが、これは文字通り追加の風味付けで、なくても普通にインスタントラーメンの味にはなる。

 

 なお、四角いインスタントラーメンと別の文化として、1960年前後という早い時期から九州では棒状ラーメンが各社から発売され、これらは一般にノンフライのようである。東日本からあんまし出たことのない僕はこれらが昔どうだったのかよく知らないのだが、少なくとも初期のデザインを引き継いでいると思われるマルタイ醤油ラーメンは、やはり粉末スープの他に油を別添している。

 

ジョー・ダウンという漫画

 20年位前だろうか、エロ雑誌だか青年雑誌だか忘れたが、たまたま買った雑誌に載ってたマンガが妙に記憶に残っている。タイトルが「ジョー・ダウン」だったような気もするが、これも定かでない。当然作者もわからない。絵柄的には劇画っぽいものだったと思う。

 

 読み切りで、ストーリー自体もほぼ覚えていないのだが、プロット的には一見さえない青年が、実は悪を退治する凄腕の暗殺者だったみたいな、よくあるもので、青年の名前は「上下」「上」が苗字で「下」が名前である。「うえつ・しも」と読む。戦いに臨む際は直衣だか狩衣だか、平安貴族か神職みたいなコスチュームに身を包む。超能力的な特殊能力を持っていたのか、それもと古代から続く武術を使うんだったか、そういうところも覚えていないが、要するに、その名前やコスチューム、出自などを、古代の朝廷を守る一族みたいな、ちょっと珍しい由来に持ってきたのが売りだったのだろう。現代日本のビル街とかに平安時代みたいなコスチュームのキャラを入れる違和感とかも狙ったんだと思う。

 

 ただ、僕がこれを、物語の筋や設定の大半を忘れても妙に記憶しているのは、悪人を成敗した後の一コマ。「僕の名前は上下、友人はジョー(上)、ダウン(下)、冗談って呼びます」というモノローグで終わっていたためだ。「うえつ・しも」という名づけ自体は古代風でちょっといい着眼点だと思う、そして漢字表記で「上下」は見た目間が抜けてるが、なるほどと思わせる。しかし上を漢字の音読みでジョー、下を英語、しかもダウンは微妙に下の英訳として変だ。ジョーダウンがなまって「冗談」というあだ名がつくのはもうなんといっていいか、強引すぎて吹き出す。誰か保存していないだろうか。

AKIRAと戦後とオリンピックと鉄人

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 少し前に、大友克洋の「AKIRA」が2020年東京オリンピックを予言していたという話題があった。まあ、オリンピックを作中で描けば4年単位の年号に縛られるので、たまたま合致したでいいのだけど、そもそもあの作品は、戦後の総決算だった昭和39年の東京オリンピックをかなりイメージしている。

 

 AKIRAは1982年に連載が開始された。そして、作中では1982年に東京を襲った新型爆弾によって第三次世界大戦が起きた後の世界ということになっている。1970年代~1980年代初期には、東西冷戦の到達点としての核を使った第三次世界大戦は、比較的リアルな設定として、多くの作品に取り入れられていた。かの「北斗の拳」も核戦争後の世界を描いているのだ。あの時代、フィクションにおいて、「今現在」の時代が大戦で崩壊した後、というのは近未来SFの舞台として非常に使い勝手のいいリアルな設定だったのだ。しかし、凡百の作品が未来のみ見つめて来るべき戦後を描いたのに対して、大友克洋は第三次世界大戦後、東京オリンピック前の日本を、第二次大戦後の東京オリンピックと重ね合わせる、奇妙なノスタルジーを重ね合わせる。あの作品は全体にブレードランナーみたいな未来感にあふれてるのに、原作でいうなら、金田がレジスタンスのごついおばさんに保護されて、いかにもな四畳半でサンマ定食をガツガツ食べるシーン。映画でいうなら暴動の中で戦後歌謡の「東京シューシャインボーイ」が流れるシーンで、戦後昭和中期のイメージをこれでもかと打ち出してくる。

www.youtube.com

 

さらに、最近あまり語られなくなったが、AKIRAは、横山光輝の「鉄人28号」の強烈なオマージュであるのは、連載開始当初から語られていた。金田のフルネームは金田正太郎であり、金田の孤児施設時代からの親友である鉄男は鉄人であり、超能力実験を施された子供たちの手のひらには通し番号が刻まれていて、アキラの番号が28号である。そして彼らの運命を動かしたアーミーの大佐の苗字は敷島である。あの時代、鉄人28号は「太陽の使者、鉄人28号」というリメイクアニメがTV放映されたりして見直されていた。

作品当初から出てくる日本の軍事組織は「アーミー」と呼称されている。自衛隊とは一度も語られない。これは日本軍が第二次大戦後解体されて、自衛隊になったのをさらにひっくり返したリアリティである。第三次世界大戦で日本の政体が大きく変わり、陸軍でも自衛隊でもない、英語の「アーミー」が正式名称になったのだ。つまりこれも「戦後」のオマージュなのだ。

 

大友克洋は、いわゆる漫画らしい漫画でなく、60年代劇画でもない、非常に緻密でリアルな作画と人間性をえがく革命的漫画家だった。AKIRAは、80年代にありきたりな近未来世界戦争後を描いたが、その表現が異様にリアルで生々しかったのだ。知らない人はぜひ漫画を読み、アニメを視聴してほしい。あれはすごいのだ。