なろう小説「戦国時代に宇宙要塞でやってきました」。アニメ化無理そうだけど面白い

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 「小説家になろう」で連載されている小説「戦国時代に宇宙要塞でやってきました」。「なろう」連載小説は一時300本くらいブックマークしてたのだけど、いまでも毎日公開を楽しみにしてるのはこれと「マギクラフト・マイスター」くらいだ。まあ、なろう独特の「人気作品は毎日新作公開でランキング上位に食い込む」という仕組みを追い続けるのがきつくなってしまって、最近は完結小説を探してまとめ読みすることが多いのだけど。

 この作品は、VRMMO「ギャラクシー・オブ・プラネット」の廃ゲーマー、アレックスこと久遠一馬が、ゲーム中で作り上げた120人の美女/美少女アンドロイド及び、ゲーム中でも所有がとても難しい月サイズの巨大宇宙要塞シルバーンとともに、現実の戦国時代に転移してしまうという設定だ。VRMMOが実現している段階で現実の一馬のいた地球もかなり未来なのだけど、宇宙要塞や、人間と何ら変わりないアンドロイドなんて技術はそれこそゲーム内の設定で、現実の未来もそこまで科学や技術が進んでいないと思われる。なお、現実世界での一馬のプロフィールはあまり作中で語られていない。社会人であること、両親はすでに死亡していて天涯孤独であること、15年続いた「ギャラクシー・オブ・プラネット」の廃ゲーマーであることくらいだ。なお、ゲームで使用していたアバター「アレックス」は十代の若者である。宇宙要塞シルバーンはぶっちゃけデススターやイゼルローン要塞以上の生産、戦闘機能を持っていて、現実の太陽系に転移してもなんにも心配いらない。作中では近隣恒星系まで調査して敵対勢力や、同じように転移してきたプレイヤーがいないか調べてるらしき描写がちらっとある。サービス終了時にゲームの無双設定で現実世界に転移したという意味では「オーバーロード」と似た展開と言えるかもしれない。ただし、この小説のストーリー展開で、無敵の宇宙要塞シルバーンと、ゲームの中で未来技術で不老、肉体強化されているという設定は、ほとんど使われない。シルバーンは通信拠点と、戦国時代に必要な物資の製造工場くらいの役割だし、一馬と120人の嫁はあえて老化するように体を設定して、戦う時もアンドロイドの身体能力を切っていたりする。

 まあ、ゲームの最終日に遊んでたらいきなり1547年の太陽系に転移してしまい、どうしようという話で、一馬は、「日本いってみようか、織田信長とか見てみたいし」となる。当時無人だった小笠原諸島に拠点を築き、ガレオン船を作って、日本に向かう。このガレオン船も実は超技術で、自ら空中に浮上して高速で移動とかできるんだけど、港に近づいたら着水して、普通の帆船を装って入港する。たまたま立ち寄った商人としてふるまうのだけど、そこに「南蛮船が来た」と聞いた織田信長がやってきて、「俺に仕えろ」とか言い出すのだけど、「私商人だし武士らしい振る舞いなんてできませんよ」と言うも、「それでもいい」と押し切られて、信長の家臣に。

 いや、なろう系のラノベで、戦国時代に転移や転生するものはいっぱいあるし、信長の一族や家臣になる話はその中でもめっちゃ多い。まあ、大概の場合現代知識チートを使い信長の天下取りを早めたり、明智光秀の謀反を防いだり防げなかったり、とにかく戦国時代らしく戦いまくる作品が多いのだけど、この作品、信長は主要キャラで主人公の主でありそれなりに有能なのだけど、魔王イメージからむちゃくちゃかけ離れている。

 そもそも、主人公たちが転移した来た時代、信長の父親の織田信秀が健在であり、信秀の死を防いだことで、信長がなかなか当主にならない。もっといえば、尾張守護の斯波義統を救出して弑逆とかしないようにしたので、守護斯波義統の立場も上がる。尾張をおさめるのは織田信秀、その主君が斯波義統。足利幕府の三管領斯波氏が勢力を盛り返し、京都では御所が雨漏りするくらいボロボロなのに、斯波武衛屋敷が修繕されて綺麗になってる。

 しかし、この作品では、戦国時代転生もののテンプレからどんどん外れていく。まずめったに戦をしない。立ち向かってくればシルバーンで大量生産した銅銭と鉄砲と大砲、さらにボウガンやら投石器といった武器を豊富に使い槍すら合わせられない戦いをするのだが、基本的に尾張で領内をどんどん富ませる。稲などの品種改良、武士から領地を取り上げ、その代わり現金で給料を支払う。領地もちだった時と同じくらいの給料を払い、軍役負担をなくすなどして、実質よりよい生活を保障し、国人領主や一門衆の不満をなくす。台風や干ばつで困窮する庶民には土地の再開発などの賦役を食事つき、給料支払いの条件で行い、飢えないようにする。尾張国内でも食糧増産してるし私鋳銭作ってるし、なんならシルバーンでコスト度外視で作れるので経済的には困ることはない。そうすると織田領に隣接する他の領地は、隣の村は豊かなのにうちは貧しいという状況に陥る。やがてやっていけなくなり、次々織田に臣従という、経済侵略で天下統一を目指すかたちになる。

 で、こういう展開なので話が長い長い。「なろう」での連載は今日公開された話で1670話。尾張に滞在していた後奈良上皇が清州城下に引かれた馬車鉄道に試乗する話である。まじで1670話である。今現在織田家の領地は、尾張、美濃、三河、飛騨、甲斐、信濃駿河遠江、あと伊勢の一部もだったか。なお、主人公久遠一馬とアンドロイドたちは独自に北アメリカ西岸、オーストラリア、フィリピン、台湾、グアム、ハワイ、北海道、樺太ウラジオストク周辺などを領有していて、最近の話で北海道での蠣崎氏との争いから南下して青森の南部領あたりまで支配下におさめている。なお、武田信玄今川義元斎藤道三などは戦死せず、織田家に臣従している。

 というわけで、華々しい展開は少なく、話数がやたら多いので、コミックやアニメにするのは正直厳しいと思う。だけど読んでいるとなんか面白いのだ。おすすめ作品である。