チキン南蛮、カレー南蛮、鴨南蛮、ミシン、ウィキ

Chicken nanban jetalone in Tsukishima, Tokyo

 

 

写真はWikipediaの「チキン南蛮」から。写真のライセンスはCC BY 2.0

 

 チキン南蛮の「南蛮」とはなんだろうと調べると、揚げた鶏を「南蛮酢」につけたものが起源で、南蛮酢の代わりにタルタルソースを使うようになったものらしい。じゃあもう南蛮関係なくない?チキンタルタルでよくない?と思うのだが、名前というのは一度決まってしまったらそういうものになってしまうのだろう。

 

 ところで「南蛮酢」とは、「南蛮漬け」に使われる甘酢の一種で、お酢に砂糖、唐辛子、ネギなどを加えたものらしい南蛮酢の「南蛮」がどこから来たのかといえば、唐辛子を「南蛮からし」とも言うことからではないかと思うが、よくわからん。

 

 僕は岩手の出身だが、故郷の老人たちは唐辛子のことを「南蛮」と言っていた。これも「南蛮辛子」の「辛子」が失われて「南蛮」だけ残ったものらしい。言葉というのは思わぬ省略のされ方をするものだ。「南蛮」は古代中華思想における「南方の蛮族」のことであるが、中世日本で東南アジア経由でやってくるヨーロッパ人が「南蛮人」と呼ばれ、彼らのもたらすものが「南蛮」という前置詞付きで語られた。「南蛮から渡来した辛子」だから「南蛮辛子」である。なお、現在一般に使われる「唐辛子」の「唐」も語源は中国唐王朝の「唐」であろうが、「南蛮」と同様「外国」を表す一般的な言葉になっていたわけで、要するにどちらも「外国の辛子だよ」と主張しているに過ぎない。「辛子」という本質を表す部分が失われ、「外国の」という前置詞だけ残ってしまったわけだ。唐辛子を「南蛮」と呼ぶのは、唐辛子を「唐」と呼ぶ、あるいは「外国の」と呼ぶのと変わらない。考えてみれば珍妙な話である。それが定着したのは「南蛮」という言葉が唐辛子以外ほとんど使われなかった。そのため混乱することがなかったという事なのだろう。

 

 カレー南蛮は、関東で言うカレーうどんの事であるが、この「南蛮」は大阪の難波ネギの「難波」が訛ったものと言われている。え?ヨーロッパの南蛮じゃないの?大阪の難波なの?確かにカレーうどんにはネギが入ってることが多いけど、マジで??

 

 もっとわからないのが鴨南蛮で。これ、カモとネギの入った蕎麦料理なのだけど、この「南蛮」はWikipediaによれば「江戸時代に来日した南蛮人がネギを好んで、健康保持のために食べたためと言われる」って書いてある。えええ?こっちは難波ネギの難波じゃなくて南蛮人なの???

 

 だから「南蛮」と略すのやめたら良かったのに。これじゃミシンと同じじゃないの。ミシンは英語で Sewing Machine。ソーイングマシンという。ソーイングは「縫い」「マシン」はもちろん「機械」訳すなら「縫い機」であるが、なぜか日本で「ソーイング」が抜けて「マシン」の部分だけ残り、「ミシン」となった。ミシンの意味はマシン、つまり「機械」である。ミシンを前に「これはなんですか?」と聞かれて「機械です」とは言わないだろう。相当珍妙な名前なのである。

 

 これらはもはや定着してしまって直しようがないけれど、今からでも防止できる珍妙略語としての「ウィキ」をなんとかしよう。この言葉、Wikipediaの略語として10年位前からカジュアルに使われているけど、もともとWikiというのは、Webブラウザから簡単に編集できるWebページの仕組みを作った人がいて、それをWikiと名付けたことに始まる。そしてこれが「みんなで百科事典つくろう」というWikipediaプロジェクトに採用された。Wikiの仕組みを使ったエンサイクロペディア(百科事典)だからWikipediaなのだ。より日本語風に言うなら、「Wiki百科事典」とでもいうべきものだ。これを「ウィキ」と略したら、「百科事典」が消えてしまうのである。もちろんWikiというのは外部から編集ができるWebページの仕組みであるので、Wikiを使ったWikipedia以外のサイトがとても沢山存在する。Wikipediaを「ウィキ」と略することは、それらすべてとごちゃまぜにすることに繋がるのだ。一つ頼むよ。