悪役令嬢婚約破棄もので嫌な作品傾向

「小説家になろう」などのWeb小説サイトで一時期流行した「悪役令嬢もの」がある。基本プロットは以下のような感じ。

 乙女ゲームの世界の悪役令嬢が主人公。なお、この場合の「乙女ゲーム」とは、女性主人公が高貴でイケメンな男性達と真実の愛を育んでハッピーエンドを目指すもの。光栄のアンジェリークあたりを元祖とする女性向け恋愛アドベンチャーが基本になっているのだけど、小説サイトで流行するにあたって独自進化を遂げている。

 

 現代日本の大企業社長一族が通う上流階級向け私立学園というパターンもあるけど、多くは中世ヨーロッパ風異世界の貴族社会で、貴族が通う王立学園が舞台。しかし優秀な平民も通っている。

 ゲーム設定に置けるヒロインは平民もしくは子爵、男爵などの下位貴族令嬢。攻略対象は王子と宰相子息と騎士団長子息と王宮魔道士子息あたりが定番。隠し攻略対象として身分を隠して留学している隣国の皇太子なども用意されている。メイン舞台が王国なのに対し、隣国はより強力な帝国であったりするパターンも多い。隠しキャラを攻略するためにはメイン攻略キャラを全員攻略しないといけないと言うゲーム設定もある。

 

 ヒロインの攻略するキャラにはもともと婚約者がいる。貴族社会なので政略結婚であり、真実の愛情はないものとされている。攻略対象たちは妾腹であったり家族の不和であったり才能に対するコンプレックスであったり、幼少時の事故によるトラウマであったり、なんらかの心の闇を抱えており、それをヒロインがフォローすることによって好感度が上がるものとされている。

 

 で、悪役令嬢ものというのは、その場合の上位貴族や王族の婚約者で本来のゲームでは嫉妬に狂ってヒロインをいじめ倒す公爵令嬢を主人公としたものだ。多くの作品で、現代日本人オタクOLの女子が、自分がはまってた乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生してしまい、ゲーム通りならヒロインをいじめて爵位剥奪や国外追放、はては死刑になるという運命を知っているので攻略対象とかかわらないように頑張るが向こうから寄ってきてやはり婚約されてしまったり、ヒロインをいじめなければいいと思っていたらヒロインが自作自演で「差別的な事を言われた」「教科書を汚された」「私物を隠された」「階段から突き落とされた」という架空の犯罪を自作自演で作り上げて「悪役令嬢糾弾イベント」を作り上げる。糾弾イベントは学園の創立記念とか卒業パーティとかのはれやかな舞台で唐突に行われ、ヒロインと王子含め攻略対象子息達が提出する証拠はヒロイン本人の証言だけみたいな雑なもので、婚約者王子とは別の王子とか、王室の調査機関とか、隠し攻略対象の隣国皇太子に真実をあばかれ、冤罪を作ったヒロインはざまあ。ヒロインに踊らされた王子は茫然自失。廃嫡され荒れ地に臣籍降下され封じられるというオチが待っている。もちろん冤罪をきせられた公爵令嬢は王や王妃に謝罪され、あらたに王太子になった王子や隣国皇太子に嫁ぐことになる。

 

 いやこれおもしろいのだ。最初にこのパターン作った人偉いと思う。ようするに冤罪を押し付けられてそれを解消し、幸せになる話だから。普通に面白い。

 

 だが、これが流行した結果これをベースとしてひねった話が生まれる。そりゃ流行に乗っかって全く同じ話を発表したら芸がないからね。で、うまれたのが、王子やヒロインが、公爵令嬢の「前世の記憶」にあえて乗っかって悪者を演じるパターン。そもそも窮屈な王になるのを避け、地方領主くらいの自由度を望み、作品世界では妄想としか思えない公爵令嬢の電波思考(前世記憶)にあわせ、悪役を演じて婚約破棄を「してあげる」。これは王子と攻略対象とヒロインが「全部わかってる本当の主人公」という逆転パターンだ。しかし意外性を狙って冒頭は不当な婚約破棄劇をあえてやっている。

 もうひとつのパターン。最終的にヒロインと王子の企みを挫く別の王子や隣国皇太子が、悪役令嬢に惚れた結果。本来悪ではなかったはずの王子やヒロインに裏で自作自演のやらせを示唆し、公爵令嬢糾弾をつくりだし、さっそうとそこから救い出し、王子やヒロインを罪に落とす。この場合悪役令嬢と最終的に結ばれるのは腹黒王子、皇太子ということになるのだが、なんだかこの「腹黒男子の手回しでもともと害意を持ってなかった人たちを悪に落としても、ヒロインを愛する」みたいなのって、意外と需要あるっぽいんだよ。どう弁護しても行き過ぎのおとり捜査、どころじゃない極悪非道な行いじゃない。これを作品の結末として提出して、感想欄でも罵倒されないって考えられねえ。人間の意志をなんだと思ってんだと。

 

 そういや「婚約者を愛していたけど相手は自分のこと嫌いだと思う。だから嫌われて離縁され、婚約者が真に愛する人と幸せになってもらいたい」みたいな自己犠牲主人公の気持ちを誤解した挙句ヤンデレ婚約者が「そんなに嫉妬されたかったの?」とかいって主人公を地下室に監禁。それで幸せみたいな小説も見かけるんだけど、君らそれでいいのか?なんなんだあの人権侵害。他者をわざわざ不幸にしたり、地下室に監禁されるのが本当の愛だみたいなの、死ねばいいと思うよ。僕はいくら底が浅いと言われても、普通の幸せがいいと思うなあ。