酎ハイとかサワーって不思議だ

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一般にうまい酒は高い。日本酒やウィスキー、ワインなんかは特にそう。普及価格帯でもまあそこそこうまいけど、本気で金がなくて最低価格品を買うと「う~ん」ってなるものだ。醸造や蒸留(蒸留酒の場合)、熟成なんかに長年のノウハウが注ぎ込まれていて、うまい酒は高くなるものだ。

 

ところで酎ハイとかサワーというのは、基本的に安い甲類焼酎に炭酸と果汁やその他のフレーバーを足したものである。酎ハイは「焼酎ハイボール」の略で、もともとは焼酎の炭酸割りである。昭和30年代の東京下町、山谷地区で始まったものらしい。日雇い労働者の安酒として居酒屋で提供されていたものだ。これが村さ来などの居酒屋チェーンで安く提供できる酒の定番となって普及していく。

「サワー」という名前で売りだしたのは東京中目黒のホルモン屋が元祖らしい。甲類焼酎を美味しく提供するために果汁と炭酸を入れて提供したものだ。現代では「酎ハイ」と「サワー」はほぼ同じものになって、「○○ハイ」「○○サワー」という感じで提供されている。

 

焼酎はもともと麦や米や芋といった様々な穀類を発酵させたものを蒸留した酒だが、連続蒸留でアルコール以外の素材の風味を弱めたものが甲類、素材の風味を残したものが乙類、乙類は近年では本格焼酎と呼ばれている。酎ハイやサワーは果汁や炭酸の風味を活かすものなので通常甲類焼酎が使われる。

 

焼酎という酒はもともとは単式蒸留で素材の風味が強く出る酒だったが、素材ごとの癖も強く、好みは別れる。明治以降連続蒸留器が導入され、癖のない焼酎が作られるようになった。ただし、この甲類焼酎は、味も香りも薄い、ようするに酔えればいいアルコールとみなされ、庶民の安酒の位置にいたわけだ。

 

というわけで、味も素っ気もない甲類焼酎を美味しく飲むための工夫が「焼酎ハイボール」や「サワー」だったのである。

 

蒸留酒に果汁や炭酸をたすのは欧米でもリキュールやカクテルという形で存在する。日本でも酎ハイやサワーと銘打った缶入りアルコール飲料は分類上リキュールとなっていたりするが、居酒屋でサワー頼むときに「これはリキュール」とは思ってないだろう。なんというか「居酒屋で楽しく飲むアレ」という意識だ。

 

甲類焼酎は日本において、おそらくもっとも「安物感」のある酒だ。しかし居酒屋で飲むサワーを「安物だからまずい」「酔えればいい」と思ってる人はあまりいないのではないか? 酎ハイやサワーが「まずい」という話はあまり聞いたことがない。

 

酎ハイやサワーは、フレーバーが多岐にわたり、ひとつの酒とはみなされない。ウメサワー、レモンサワー、グレープフルーツサワー、ウーロンハイ、だいたいみんなおいしい。異様に雑多なのに、なんだか一つの括りになってて安心して注文できる。そして安い。

 

いわゆる「カクテル」ってちょっとお洒落で高級感あるじゃん。バーテンに「スクリュードライバー」とか注文するみたいな。そんでドライバー渡されて椅子の高さキコキコ調整するのはアメリカのコメディドラマ「ポリス・スクワッド」だけどな。酎ハイはそうじゃなくて、気負いなく頼めるけど、だからといって低層の飲み物とか思う必要もないおいしいお酒なんだよな。