山上たつひこ「光る風」に見る「いつかきた道」論の敗北あるいはあれをエログロ「抜きマンガ」として読んだ中学生の告白

山上たつひこ先生といえば「がきデカ」で一世を風靡したギャグ漫画の巨人であるのだが、彼はそれ以前非常に重い劇画調の作品をいくつか描いている。COMとかに投稿してた人だし。なかでも1970年に少年マガジンに連載された「光る風」は最大の問題作とされている。


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これがまあ、とにかく軍国主義に回帰し、個人の人権が蹂躙されていく日本をこれでもかと描いた恐ろしい作品なのだけど、今の時代これを「時代を予見していた」的に利用されそうだし、そうされるのはなんだか嫌なのだ。なんだかそれって山上たつひこの天才性をそいでしまう気がする。それに、「三光」とか「斬り落とした首を持つ海軍兵」の写真の模写とかの当時の資料に依拠した部分は格好の攻撃材料になってしまうだろう。それらが真実どうであったかの議論はともかく、過去に「捏造攻撃」の対象になった部分であるがゆえに、物語の面白さ、深さを無視した、為にする喧嘩に巻き込まれかねない。これは1970年代のある層にとってのリアリティであって、2014年のリアリティとは似ていても違うのだ。この作品には愛があり、絶望があり、エロが、グロがある。もしこれが描いている1970年代の思想的リアルがじゃまになって楽しめない人がいるとしたら勿体無いことだ。中学時代の僕はこの本を書店で発見して「がきデカ」の山上先生がこんなマンガを!!マジでセックスしてる!!えろい!ってちんちんビンビンにして立ち読みしてたのである。さすがに50になって再読すると、その当時抜いてたシーンではもう抜けないのだが…

 

そういうわけで、未読の人はぜひじっくり読んでほしい。読んだ結果どんな感想を抱くも自由だ。