同人マークについての意見

日本のマンガ業界において、同人誌の存在はもはや無くてはならない物であると言える。代表的な同人誌即売会コミックマーケットは三日間で59万人の来場者を集める巨大市場になっている。商業漫画家を目指す若者が腕を磨く場としても同人誌は機能しており、今や新人漫画家の多くが同人誌出身であるといっていいだろう。

同人誌は大きな需要がある世界であり、イベントだけではなく、漫画専門書店での全国流通も行われている。同人サークルが主要都市に支店を持つ「とらのあな」などの書店に印刷所から直接卸し、各地の同人ファンが買い求める。もちろん通販も行われている。そしてその多くは既存の漫画、アニメを素材にした二次創作同人誌である。

漫画家にとって、自作品の設定やキャラクターを流用した同人誌の存在はどういうものだろう。もちろん自作品のイメージが壊れることを嫌がる人もいるだろうが、意外と多くの作家は「同人誌にされるほど人気が出たか」と喜んでいたりするのではないだろうか。また、海賊版と違い、同人誌は通常自分の作品と競合して作品の売上を落とすものではない。自分自身が同人誌作成を経験している漫画家なら、なおのこと同人誌を潰そうとは思わないだろう。同人誌は日本の豊なマンガ文化の裾野を形成しているのだから。

日本の著作権法親告罪であり、基本的に権利者が訴えない限り裁かれることはない。しかしTPP交渉の結果非親告罪化される可能性が出てきている。非親告罪になれば、原作者に問題にする意思がなくとも検察が刑事事件として立件することが可能になり、「あの同人誌は著作権を侵害している」といった通報で同人サークルが刑事罰を課される可能性が出てくる。実際に逮捕されたり罰金や懲役(著作権法違反には懲役刑もありうる)にならないとしても、同人誌における萎縮が進む可能性が高い。

そこで、この状況をなんとかしようと考えたのが漫画家の赤松健氏である。自作品の主たる出版社の講談社、及び著作物の適正な再利用を推進するクリエイティブ・コモンズの日本における推進団体、コモンスフィアと組んで「同人マーク」を制定したのだ。クリエイティブ・コモンズとは、そもそも画像や動画、音楽、文章といった著作物に、「クレジットを表記すれば自由に使える」「商用使用不可」「改変不可」「再配布時は同じライセンスを適用」などの条件を組み合わせて権利者が再利用を許可する仕組みである。ただし、このクリエイティブ・コモンズは、もともとあるコンテンツをそのまま、もしくは「手を加えて」再配布する利用法を前提としており、一から書き起こす二次創作同人誌には当てはめにくい。そこで「二次創作を許可します」と明示する同人マークの制定という方法を選んだわけだ。

同人マーク1.0

現状の同人マークはあくまで「同人誌即売会での二次創作物(デジタル作品を除く)の配布」を許可するものである。ワンフェスの「一日版権」に近い。出版社をも巻き込んで、多くの作家、会社が同意できる線を許可したという形になるのだと思う。当然「CG作品のダウンロード販売はどうなる」「同人ショップでの販売はだめなのか」という話になる。これは同人マークFAQにあるように、それらを許可したい場合。マークとともに許可範囲を文章で添えるという形になる。また、あくまで同人マークは「明示的に二次創作を許可した」印であり、今まで黙認していた作家がいきなり「即売会以外の販売は訴える」というような、制限を厳しくするものではないのだ。赤松健氏は新連載で同人マークを付けたが。「ラブひな」や「ネギま!」のエロ同人誌を書店売りしたりエロCG集を頒布してた人を新連載では厳しく取り締まるということはまずありえない。てかあの人自分の作品のエロパロ同人誌をコミケで買ってたよねw

ただし、本格的に著作権法の非親告罪化が実現した場合を考えると、同人マーク2.0が必要であると思う。とにかく各方面を納得させる形で同人マーク1.0を制定したため、許可範囲が狭いところから始まってしまった。クリエイティブ・コモンズが、「BY(原作者表示すればOK)」が基本で、「商業利用不可」や「改変不可」を足していくという、「制限を追加するモデル」であること、それぞれの制限に応じたアイコンを用意していることを考えると、同人マークも「好きに使っていい」のが基本で「書店頒布不可」「通販不可」「デジタル作品不可」などの制限を後から追加する形で、それをマークで区別できるのほうが好ましいと思う。