幻魔大戦とGLA

幸福の科学が政治団体作って「金田一少年」の作者を擁立とか言う話の中で気になったネタ
平井和正が高橋佳子の「真創世記」ゴーストライターだという話はよく知られている。GLA側の見解としては口述筆記しただけということだが、そのことは問題ではない。平井が少なくとも高橋信二死去から、高橋佳子による引継ぎという重大な、そしておそらくは教団内部に分裂の種がまかれた時期にGLAにかかわり、心酔していたという事実が、後の小説版「幻魔大戦」に大きな影響を与えているということがファンとしては重要である。
もともと漫画版「幻魔大戦」自体が、70年代へと向かう時代の閉塞の中で生まれた元祖ハルマゲドン漫画であるのは確かなのだが、このマンガと、角川文庫版幻魔大戦の間に平井のGLA関与の時期が挟まっている。小説版の冒頭がマンガをほぼ忠実になぞりながら、ニューヨーク暴動のあとは東丈が教組になっちゃう宗教小説になったということで捨てた初期読者が多いが、実際のところ、書き始める段階で平井はどっぷりGLAにはまっており、こうなることは半ば必然だったと思われる。平井はたびたび「言霊」という語を口にする。彼の場合、あらかじめかっちりした構想を立てるよりも、その場その場での「降りてくる言霊」に従って執筆していたのであろう*1。おそらくは小説で「幻魔大戦」をやると決めた段階ではマンガ版をなぞりながら古臭くなった要素を執筆当時の感覚にあわせて書き直す程度のつもりでいたのではないかと思うが、書いているうちにそのときはまっている要素がどんどん膨らんでいく。そういう流れであんなことになったのではないか。

そう考えた上で幻魔大戦を読むと非常に面白いのだ。角川版で東丈は久保陽子に心を開くことで組織作りを志向する。高校での部活の延長で講演会をやったことが、漫画版との大いなる分岐点と言っていいだろう。のちのち幻魔は演説小説だと言われる原点がここにある。主人公の講演会というのは、実のところ作者の心理の告白、または布教活動にほかならない。これより後、小説「幻魔大戦」はたびたび作中の講演会がクライマックスとなるパターンにはまっていく。学校での講演会で、文芸部の一分派であった「超常現象研究会」略してGENKEN(実は幻魔研究会)は学校外部にも知られることになる。GENKENメンバーの父親が丈の演説に感動し、パトロンになることを申し出るのだ。これによりGENKENは渋谷のビルを本拠として使えることになり、美形高校生教組による宗教団体として動き始める。本人達は宗教団体という抹香臭いイメージを嫌っているのだが、このパトロン氏が、要するに善人なのだが、すごい人に出資して盛り立てることしか考えてない小物なので、新興宗教的な組織作りしか出来ない。入ってきた大人たちは、幹部会議で上納金の集計はどこがやるのかとか、幻魔との戦いから考えるとどにも瑣末なことにこだわったり、自分の地位を守るために汲々としてる小物ばかり集まってしまう。主宰の丈は静かな怒りで気温を上げ、大人たちを追い出してしまう。ただしパトロン氏は本質的に善人なので、追い出すことはせず渋谷のビルはありがたく使い続けるわけだ。

その後も延々GENKEN内部の不和、個人の勝手さが描かれ、組織とはどうあるべきかを延々と考え続ける展開が続く。

そして、運命の箱根セミナー。
そのとき東丈のもとにニューヨークのルナやソニーが現れ、何事かを告げた事が示唆されるが、間接的証言のみで明確な描写がないままに、突然東丈は失踪する。箱根のホテルを借りてのイベント、それも最終日に丈の講演が予定されている中での主宰、主人公の失踪である。混乱するGENKENの中で、それまでどちらかというと会員に神聖視されていた丈にずけずけと物を言うトリックスター的な立場を通してきた井沢郁恵(東君には性欲ってあるの?という質問には読者の多くがぶっとんだであろう)が、「じつはなにかあったら後を頼むといわれていた」と突然霊的にステージアップし、講演を行う。それは東丈の物とは明らかに違う、前世記憶などをメインとしたものだった。

当然反発する会員多数。GENKENは分裂したりしながらいろいろあって、角川版幻魔大戦は中断してしまう。

ねえ、これって、仏教系なイメージで高橋信二が売っていたGLAで、信二の死後突然「ミカエルでーす」って引き継いだ高橋佳子にものすごくかぶるんだけど。
幻魔大戦ではもっとあからさまになる。
角川版幻魔大戦の世界はもともと漫画版をベースとしていて、漫画版はもう人類どうしようもないよ、月が落下してきて全滅だよってところで終わる話なので、徳間書店で展開した「真幻魔大戦」では、「あの世界では幻魔が勝ったけど、実は幻魔大戦は時空を超えて行われてて、負け戦をしても時間を戻したパラレルワールドでやり直しているんだよ」ってアイデアで作られている。こちらでは東丈は高校時代に使命に目覚めることはなく、超常現象好きだけど懐疑的な作家に成長している。そのなかで幻魔がやってきてってな話。角川版でGENKENが存在した渋谷のビルにはGRAなる新興宗教が入ってます。こっちでも東丈はすでに失踪してるんだけど(笑)、東丈の秘書をやってた杉村さんがGRAから来た人に誘われてそこに行くと、旧GENKENのメンバー、井沢郁恵らと時空を超えて再会する。GRAの教組は最近亡くなっていて、GRAは本来東丈に譲り渡すために作ったんだってなことを言い残してる。そこに教組の姉だったか妹だったか、現在の権力を握ってる金が全てみたいなギンギラおばさんが現れて、死ぬ直前の教祖は混乱しててあらぬことを口走っていたのだとか、信者の気持ちを逆なですることを言い出す。実はそのおばさん幻魔に取り付かれていたみたいなオチ。

ねえ、すっごいリアルになにかを言いたいんだなって思いません?ww

関係ないけど、幻魔大戦deepトルテックはさすがに高すぎです。平井先生、昔「読者が安く手に入れられるように文庫や新書で出してきたけど、おまえらわがまますぎ、自分は欲しい本のために食費も削ったんだ」って言ってハルマゲドンをハードカバーにしたけど、さすがにトルテックの、ハードカバー三冊で21000円はきついっすよ。

*1:ちなみに、新たなパラレルワールドである幻魔大戦deep以降の世界では、東丈はダウジングにはまっている(笑)。先生、メガビタミンにはまってるだけじゃなかったんだ。