AKIRAと戦後とオリンピックと鉄人

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 少し前に、大友克洋の「AKIRA」が2020年東京オリンピックを予言していたという話題があった。まあ、オリンピックを作中で描けば4年単位の年号に縛られるので、たまたま合致したでいいのだけど、そもそもあの作品は、戦後の総決算だった昭和39年の東京オリンピックをかなりイメージしている。

 

 AKIRAは1982年に連載が開始された。そして、作中では1982年に東京を襲った新型爆弾によって第三次世界大戦が起きた後の世界ということになっている。1970年代~1980年代初期には、東西冷戦の到達点としての核を使った第三次世界大戦は、比較的リアルな設定として、多くの作品に取り入れられていた。かの「北斗の拳」も核戦争後の世界を描いているのだ。あの時代、フィクションにおいて、「今現在」の時代が大戦で崩壊した後、というのは近未来SFの舞台として非常に使い勝手のいいリアルな設定だったのだ。しかし、凡百の作品が未来のみ見つめて来るべき戦後を描いたのに対して、大友克洋は第三次世界大戦後、東京オリンピック前の日本を、第二次大戦後の東京オリンピックと重ね合わせる、奇妙なノスタルジーを重ね合わせる。あの作品は全体にブレードランナーみたいな未来感にあふれてるのに、原作でいうなら、金田がレジスタンスのごついおばさんに保護されて、いかにもな四畳半でサンマ定食をガツガツ食べるシーン。映画でいうなら暴動の中で戦後歌謡の「東京シューシャインボーイ」が流れるシーンで、戦後昭和中期のイメージをこれでもかと打ち出してくる。

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さらに、最近あまり語られなくなったが、AKIRAは、横山光輝の「鉄人28号」の強烈なオマージュであるのは、連載開始当初から語られていた。金田のフルネームは金田正太郎であり、金田の孤児施設時代からの親友である鉄男は鉄人であり、超能力実験を施された子供たちの手のひらには通し番号が刻まれていて、アキラの番号が28号である。そして彼らの運命を動かしたアーミーの大佐の苗字は敷島である。あの時代、鉄人28号は「太陽の使者、鉄人28号」というリメイクアニメがTV放映されたりして見直されていた。

作品当初から出てくる日本の軍事組織は「アーミー」と呼称されている。自衛隊とは一度も語られない。これは日本軍が第二次大戦後解体されて、自衛隊になったのをさらにひっくり返したリアリティである。第三次世界大戦で日本の政体が大きく変わり、陸軍でも自衛隊でもない、英語の「アーミー」が正式名称になったのだ。つまりこれも「戦後」のオマージュなのだ。

 

大友克洋は、いわゆる漫画らしい漫画でなく、60年代劇画でもない、非常に緻密でリアルな作画と人間性をえがく革命的漫画家だった。AKIRAは、80年代にありきたりな近未来世界戦争後を描いたが、その表現が異様にリアルで生々しかったのだ。知らない人はぜひ漫画を読み、アニメを視聴してほしい。あれはすごいのだ。