トーヨーリンクスという夢の会社

 かつてコダックのフィルム現像を一手に引き受けていた東洋現像所という会社があった。ここが1980年代に、コンピューターグラフィックスに乗り出す。トーヨーリンクス。現IMAGICAである。

 

 大阪大学と組んで、日本のCGを牽引したのがトーヨーリンクス。当時グーローシェーディングやフォンシェーディングを超えて、光学を本格的にコンピューターで計算するレイトレーシングが「リアルなCGの本命」としてもてはやされていた。レイトレーシングは、画面のピクセルが空間を逆にたどって光源まで進む過程を計算し、ピクセルの色と濃度を計算するもので、フォトリアリスティックなCG作成にはこれしかないと思われていた。ただし、この技法で画面を作るには非常に計算資源を必要とし、一画面の静止画を作るのに一晩かかるような時代だった。

 レイトレーシングは、画面を構成するピクセル毎に光路を計算しなければいけない。逆に言うと、ピクセル毎にコンピューターが計算すれば一瞬で一画面ができあがるのである。大阪大学とトーヨーリンクスは、かつてない大規模CPUクラスターを作成する。これがLINKS-1とLINKS-2である。

 

 細かいことは記憶にないのだけど、LINKS-1はZ80ボードを大量にスタックしたタンスのようなコンピューターだったと思う。LINKS-2はZ8000でこれを行ってたはず。ただし、これらも1ピクセルに一つのマイコンを割り当てるほどの数はなかったと思う。たとえば640×480のピクセルを全部物理CPUに割り当てるなら、30万個のCPUが必要になる。さすがに当時そんなクラスタは組めなかった。1CPUあたり数百ピクセルレンダリングするだけでも、当時のCGとしてはかなりのハイパワーで処理できたはずだ。

 

 僕が大学生でトーヨーリンクスの会社説明会に行った時代、おそらくZ8000ボードを数百個重ねたラックがそこにあった。まあ一部屋占拠するCGプロセッサである。1986年かそこら、アメリカでシリコングラフィックスSGI)がCGコンピューターを開発していた時代だ。

 

 SGIは、その後1990年代にCG用コンピューターで一世を風靡することになるが、これはあくまでジオメトリエンジンという、座標変換とシェーディングのマシン。モデリング時に高速でポリゴン表示するための物で、最終的にフォトリアリスティックな絵を作るのはあくまでレイトレーシングで、これは相変わらずうんざりするほど遅かった。

 

 SGIが作ったジオメトリエンジンのアイデアは、後にパソコンのグラフィックボードに引き継がれ、ゲームでのリアルタイム3D表示がどんどん発展する。

 

 これらのグラボは初期の頃、同時ポリゴン表示数などで競ってて、とてもフォトリアルな画面を作ることはできなかったが、アンチエイリアシング、バーテックスシェーダー、プログラムシェーダーと発展していくうちに、もはやかつてのレイトレーシングと同等かそれ以上のリアリティを出すことができるようになる。また、グラボの中身はあくまで画像生成の段階的回路だったものが、汎用演算器の集合になっていき、ポリゴン表示以外のベクトル計算にも使われるようになっていく。

 

 こうなると、ようするにCPUが数百個とか数千個とか1チップに入ってるような物である。これで気づいちゃったんだろうね。数年前にNvidiaが、これを使ってレイトレーシング演算やりますってデモを公開した。

http://www.nvidia.co.jp/docs/IO/77604/OptiX-Billiards_large.jpg

あー、つまり30年前のトーヨーリンクスの夢が、ここで実現しちゃったわけだ。長かったねえ。