爵位はややこしい

 爵位って、なんというか、王様の下に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵っていう等級が最初から決まってたような気がするけど、ながーい歴史で出来上がってきたもので、それぞれの由来も色々バラバラだったりする。なお、日本の明治時代に華族制度が作られたときは、ほぼ一気に公侯伯子男の爵位が制定された。これは古代中国の制度を模し、かつ西洋の爵位にできるだけ1:1対応させるのに都合が良かったのだけど、実は完全には対応していない。日本語で「公爵」とされる階級はPrinceとDukeという2つの階級をまとめてしまっている。よくラノベファンタジー作品などで公爵は王位を継がない王族が就く爵位とされるけど、これはPrince。Dukeの方は王族以外の貴族の最上位みたいな感じだろうか。まあ、PrinceやDukeが君主の国もあって、こういうのは公国と表記されるんだけど。ほらもうややこしい。

 日本の「公爵」は五摂家とか徳川宗家とか、あと明治維新の勲功著しいとされた家がもらったので、皇族とは必ずしも関係ないのだけど、英語表記をPrinceとしたため、別に皇族でもないのに海外報道で皇族と誤解されたりなんてこともあったらしい。

 

 そもそもの由来をたどると、日本語で「公爵」とされる爵位の一つ、Princeは古代ローマプリンケプス。指導者もしくは第一人者を表す言葉だ。共和政ローマの時代にこの役職はすでにあり、元老院で最初に発言できる、権威ある役職だった。初代ローマ皇帝アウグストゥスは、以前のカエサルが、終身独裁官の地位にあって、「王ではない」事を強調しても暗殺されたことを記憶していたので、より穏健な「第一人者」の地位を自分のものにした。で、結果的に第一人者たるプリンケプスが、元首、君主の称号になっていく。ちなみにラテン語で「王」はRexである。ティラノサウルスレックスのレックスである。

 「公爵」のもう一つのDukeは、ラテン語のDuxからきている。これはローマの軍団指揮官を指した言葉で、やがて属州の最高権威をさすようになる。

 

 侯爵に対応するMarquessは、フランク王国で辺境を守る武将の役職だった。主に東ローマ帝国との国境に配置されていた。ファンタジー小説で国境を守るために大きな軍事力を持ってる「辺境伯」が出てくることがよくあるけど、これが元。ドイツ語でGrafが伯爵で、Markが軍管区とか辺境。Markgrafが辺境伯となるわけ。これが時代が下ると、公と伯の間の爵位となっていく。

 

 伯爵を表すCountは、ラテン語のComesが元。Duxが部下として指名した廷臣の階級である。もとは個人を指名する形だったのが、強い自治権を持ってたことから、世襲化されていった。

 

 子爵を表すViscountは、「副伯」、つまり伯爵の下という意味合いで作られた爵位

 

 男爵を表すBaronは、古フランク語で「自由民」を意味してたのだが、封建領主全般を表す名詞として使われ、やがて貴族階級が明確になってくると、爵位最下級に収まる。

 

 ちなみに、英国においてはもともとデーン人が使っていたEorlという爵位があり、イングランドが統一される過程で、アングロサクソン7王国あった地域を治める豪族に爵位を与えた。これがEarlで、ロンドン郊外の有名なテニス場が有る「アールズコート」の「アール」である。後にノルマンディー公ウィリアムがイングランドを征服して現在のイギリスの基礎を作った時、ヨーロッパの爵位制度を取り入れたが、イングランドに定着していたEarlを「伯爵」に当てはめ、その上に侯爵や公爵を、下に子爵や男爵を置いた。なので、イギリスの伯爵はCountではなくEarlなのだ。なお、イギリス人が大陸の伯爵を呼称するときはCountを使用する。なので英語で伯爵はEarlとCountの2つに別れる。平野耕太のマンガ「HELLSING」で、英国の伯爵たるインテグラヘルシング卿とヨーロッパの伯爵たるアーカードが、「おかえり、伯爵」「ただいま、伯爵」と挨拶する名シーンがあるが、あの場面、英語ならEarlとCountを使い分けるべきかと思うが、実際の英語版でどうなってるのか知らない。