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MacOS Xの誕生はわりとゴタゴタしていた。

 Appleは、初代Macintosh以来のOSを、極力互換性を損ねないように拡張していた。擬似マルチタスクの導入、仮想記憶のサポートと32ビットアドレスへの対応。このへんはDOSや初期のWindowsに比べても先進的でスマートだったと思う。しかし、Win32アプリがプリエンプティブに動くWindows95が喝采とともに登場した頃、Macはまだ擬似マルチタスクだったし、メモリプロテクションもなく、アプリケーションの不具合で容易にOSを巻き込んで爆弾を出していた。AppleはコードネームCopland、予定ではMacOS 8となるOSにおいて先進的OSへと脱皮することを試みた。マイクロカーネルのもとでメモリは保護され、プリエンプティブ・マルチタスクが実現し、オブジェクト指向の環境が実現するとされていた。UIも大きく発展するはずだった。しかもこれまでのOSと完全な互換性をもつとされていたのだ。

 しかしCoplandは遅々として進まず。目標も修正されていった。プリエンプティブ・マルチタスクができるのはUIを持たないバックグラウンドプロセスのみとされた。当たり前だがユーザーが直接触るのはUIを持つ「普通の」アプリケーションであるので、これは結構がっかりする話だった。

 このあと、ギル・アメリオCEOの元でCoplandの開発状況が精査され、びっくりするほど「何も出来ていなかった」ことが明らかになり、外部からOSを調達する決断を下したのは有名な話だが、一応Coplandの開発版はデベロッパ向けに配布された事実がある。

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まあ、この動画見ても、どうやら使い物にならなそうな段階であるのはわかるけど(笑)。

 

 さて、結局Coplandをキャンセルしてスティーブ・ジョブズのNeXTを買ったAppleだが、当初のプランはその後実現したMacOS Xとはちょっと違っていた。

 コードネームRhapsody。NeXTのOS、OPENSTEPを少々手直しし、旧MacOSのソフトを動かすエミュレーション層のBlueBox、OPENSTEPそのもののYellowBoxが同居し、かつインテルx86版も登場する予定だった.(インテル版ではBlueBoxは動かない)。なお、OSとしてのRhapsodyとは別に、YellowBox for MacOS,YellowBox for Windoes95/NTも予定されていた。これらはWindowsMacOSの上でOPENSTEP系のアプリケーションを動かす機能拡張だ。正直やりすぎである。

 

 Rhapsodyは実際に比較的ちゃんと動作する開発版がデベロッパ向けに二回リリースされたが、DR1はほんとにテーマをMacOS8風に変えただけのOPENSTEPで、一応メニューバーはあるが、Finderの代わりにNeXTのワークスペースが表示されるありさまだった。

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 DR2はNeXTのアプリケーションパネルが消え、ハードディスクやゴミ箱のアイコンが右に移動した分普通のMacOSに近づいた見た目にはなっていた。

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 ただ、なまじ似ているがためにかえって慣れ親しんだMacOSとの違いが気になるし、RhapsodyのYellowBox APIはOPENSTEPそのままで、Macとは全く違っていたから、Adobeを始めとするMac用の大手ソフトハウスは否定的だった。Macのソフトがそのまま動くBlueBoxというのは一つのアプリケーションで、その中で従来のMacOSを動かす、現代で言うVirtualBoxとかHyper-Vみたいな仮想環境に近い、BlueBox内で動くMacソフトはRhapsodyのモダンな機能は使えず、今までと同様OS(BlueBox内のMacOS)を巻き込んでクラッシュする。モダンOSの恩恵を受けるにはAPIが全く違うYellowBoxへの移植が必要になる。

 結局RhapsodyはMacOS X Server 1.0として販売されることになる。サーバ用なら通常の個人用デスクトップアプリを多用することもないので、とりあえず市場に出すことが出来た。

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 で、個人用のOSに関しては、ごちゃごちゃしすぎたRhapsody計画を整理し、Intel版とか従来OS用YellowBoxとかは中止。YellowBox APIと、BlueBoxではあまりに断絶していたので、仮想環境ではなくネイティブに動き、モダンOSの恩恵を受けるが、いくらかソースの修正が必要になる Carbon APIを実装することになる。これなら受け入れられると、従来のデベロッパたちも歓迎。ファイルマネージャーもNeXTらしすぎるWorkspace Managerではなく、Carbonで書き直されたFinderに置き換えられた(ただし、便利なカラム表示の機能はFinderにもつけた)。また、OPENSTEPの画面描画を担っていたDisplay Postscriptは、おそらくこの時点でPDFベースの新描画エンジン、Quartzに置き換えられた。Adobeのライセンス料が高額だったことが変更の主な理由とされている。まあOPENSTEPは金融機関とか高等教育機関、研究機関向けに販売されていたもので、個人用ではちょっと価格に転嫁できないようなものが使われていたのだろう。

 そして登場するのがMacOS X 10.0である。

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 いやこれはまいった。画面デザインが大きく変更され、MacOS 8の路線とも、NeXTの路線とも全く違う鮮やかなUIが出現した。はっきりいってこけおどしなんだけど、これにはほんとに「こけおどされ」た。一刻も早く実際に触ってみたいと思わされてしまった。まんまとスティーブ・ジョブズの手のひらで踊ってしまった。まあ楽しかったのでOKだろう。

 ただし、当時の多くのMacユーザーは「コマンドラインが根っから存在しないMac」の哲学を愛しており、Terminal.appでUNIXのシェルを触れる事自体を退化だと見なす傾向があった。もっとも、NeXT時代からOPENSTEPを使ってきたユーザーや、簡単に使えるUNIXマシンとしてMacを買った新規ユーザーはそんなMac哲学にこだわらなかったし、旧来のMacユーザーたちもやがて慣れた。