高橋研「懐かしの4号線」の謎

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昭和54年、この曲が岩手のラジオで連日かかっていたことがあった。全国的にはそれほどヒットした曲ではないと思う。「懐かしの4号線」は岩手出身のシンガーソングライター、高橋研のデビュー曲である。

4号線はもちろん国道4号線。東京から青森まで続く国道である。岩手の中心を通るこの国道は「ずっといけば東京に行ける道」という「夢の道」であった。

 

僕の子供時代の感覚では東京はあらゆる文明の先端であり、文化発する地であり、テレビや雑誌がやってくる夢の国であり、それに対して地元岩手というのは日本のチベット。日本の中も最悪レベルの後進国で、蔑まれるべき田舎で、三等国民の住まう場所で、不潔で奴隷の地で、岩手に生まれたら東京に出るしか人間としてみなされる道はない。岩手にいる限りどんなに虐げられても踏みつけられてもうんこぶつけられても殺されても仕方ない最低階層の存在とみなされるという感覚があった(少々オーバーに表現しております)。

そんな岩手県民にとって4号線は「夢の東京への脱出路」であったわけで、この歌はまさにイエローブリックロード。オズの魔法の国へ向かう青年の歌だと思ったのだが、よく聞くとこの歌で東京へ向かう主人公は「俺の切符の行く先ゃ東京」と言ってるのだ。あ。4号線で東京に行くんじゃなくて東北本線で東京行くんだ。4号線は岩手在住時友人らと車走らせた思い出なんだね。ついでに言わせてもらうとジョージは大阪、ユキオは札幌、おいらの切符の行先ぁ東京って、おい主人公、お前なにげに友人たちよりランクが上の東京に行くこと自慢してないか?大阪は「世の中銭でっせ」だろ、札幌はラーメンと熊の木彫だろ。東京は東京タワーと高層ビルとテレビと雑誌だろ。んで岩手は奴隷状態のチベットだろ。大阪もサッポロも岩手よりはマシで友人たちも良かったな。おまえらが不幸にならなくて安心したぜ。だけどおいら一人東京行くぜ。マスコミだぜ。高層ビルだぜ、六本木だぜって自慢してるだろ。

 

まあ、いまネタっぽく語ったけど、当時岩手の中学生だった僕は実際こんな感じの感想抱いて「なんだこの主人公自慢かよ」って思ってたのだった。

 

いまこのエントリ書くために聞き直したんだけど、ラストで「64年のブルーバードがぼくらの全てだった」て歌詞を初めて知った。当時のラジオ放送ではラストまでかかることなかったからなあ。64年って僕が生まれた年じゃん。東京オリンピック東海道新幹線の年だよね。高橋研はジョージやユキオと64年式ブルーバードで4号線ドライブとかしてたんだなあとか思っちゃってちょっとほろっとしちゃったよ。70年代当時東北自動車道とかなかったんだよな。

 

んでさあ、このエントリのタイトルの「謎」というのはね。4号線はほとんど内陸を通ってるということなんだよね。この歌で描写される「4号線の朝焼けは海を超えてくる」という情景、国道4号線ではほとんど存在しないんだわ。海の近くを通るのは青森と宮城の一部だけ。特に高橋研の出身地である岩手県内の路線は、海と4号線の間に北上山地がドーンと鎮座してて、とても海を印象させないのだ。岩手県民感覚だと、「4号線の朝焼けは北上山地を超えてくる」となる。すげえ詩にならないwww。