「小説家になろう」で見かける転移物と転生物

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「小説家になろう」投稿作品で人気のジャンルがファンタジー世界への異世界転移、転生物だ。まあこういうジャンルの物語というのは昔から存在していて、人気もあるので特に不思議ではないのだけど、読者がすぐに作者になれるWeb小説サイトの特性なのだろうか、設定の共有具合がすごいなあと思うのだ。

 

転生物と転移物

ファンタジー世界での活躍自体はあまり違わないのだが「転移」と「転生」という異世界への行き方の違いがある。「転移」は主人公が勇者召喚などの魔法、または偶然開いた次元の裂け目への転落などの方法で肉体を保ったまま転移するものだ。突然異世界に召喚されるため、元の世界では行方不明となる。

 

異世界に勇者として召喚される作品というのは昔からあるのだが、「なろう」で特徴的と言っていいパターンが勇者召喚を異世界からの誘拐とみなす視点だ。まあ実際なんの同意もなく日本の日常から魔物が跋扈する世界に召喚されるのは勘弁してもらいたいわけで、それを行うものに悪意があるにしろ無いにしろ非難されるべき行為という考え方はあるだろう。この視点が強い場合、だいたい召喚魔法を使用した国家は戦争のためなどの理由で「勇者」を召喚し、問答無用で洗脳したり隷属の首輪をはめようとしてきたりする。主人公は当然その場で逃げ出し、街に潜伏したり他国に脱出したりする。

 

召喚された勇者がなぜ強いのかという理由は召喚魔法そのものが転移してくるごく普通の日本人になんらかの能力を付与する、神が召喚に関与するパターンでは神が祝福として能力を与えるなどがあるが、「勇者」召喚なので自動的に「勇者能力」がつくものらしい。

 

異世界転生物の場合は、「転生」なので主人公が死ぬことが前提になる。暴漢に刺された、病気で死んだなどのパターンもあるが、びっくりするほど多いのが「トラックにはねられた」パターンである。おまえらミンキーモモか。

死んだ主人公が白い世界で「神」とか「世界の管理者」を名乗る存在に会い、異世界への転生を打診される。その理由は子供を助けて死んだからとか、神の予定外の死だったから、そのままの世界で復活させることが出来ないけど異世界でもう一回生きさせてやるとか、単なる神の遊びとか、世界の崩壊を止めるためとか、あまり一定したものではない。この場合、この白い世界の中で神の好意や、神と主人公の交渉などにより、チートスキルを得るパターンが多い。しかるのちに異世界に記憶を保ったまま赤ん坊として誕生する。

ほとんどの作品で、ゼロ歳児の段階で生前の意識をもってるので、「妙に泣かない子だった」などと言われることになる。また、2歳位から魔法書を独自に読んで練習しだしたりしてすごい魔法の力を身につけるパターンも多い。

 

乙女ゲーム転生物

ところで、異世界転生物の一種で「乙女ゲーム転生物」がある。女性主人公が学園などで逆ハーレム作るアドベンチャーゲームそっくりの世界に転生していまうというもので、十中八九ヒロインではなくライバルの悪役令嬢に転生。その多くはファンタジーの王政国家が舞台で、王子とかの婚約者であるが、王子がゲームで心を移すヒロインを主人公がいじめて、最終的に断罪され、婚約破棄、爵位没収、没落、ひどい場合は処刑される運命が決まっている。そこでなんとかゲームの流れから外れようとするというパターンになる。

興味深いのが、乙女ゲーム転生物の場合、現代日本での死→異世界での誕生という流れではなく、異世界が最初から舞台になっていて、ある日日本で乙女ゲームをやっていた記憶を取り戻すというパターンが多いことだ。死因もはっきりせず、乙女ゲームにはまってたOLだったというあいまいな記憶だったりするパターンが多い。

7歳とか、10歳とか、それなりに分別がつく年令になって、重病で生死の境をさまよったり、怪我をしたりしたのをきっかけに突然前世の記憶が蘇り、「私あのゲームの悪役令嬢じゃん!」みたいなハメになる。ひどい場合散々ヒロインをいじめて断罪イベントが起きるまさにその時に記憶を取り戻したりする。こうなると悪役になるのを回避という手段がないので難易度が上がるわけだ。

なお、早めに記憶を取り戻して、この先の運命を知り、わがままお嬢様になる事自体を完璧に防いだ場合、ヒロインが完全に道化になることが多い。多くの作品でヒロインも転生者で、まさにゲームのヒロインに転生したのでいい気になって逆ハールートを選択し、美形5人侍らせた挙句悪役令嬢がいい人になってるのに気づかず、自作自演の「悪役令嬢のいじめ」を捏造してもうまくいかず、「なんでフラグたたないのよ」みたいなことを叫んで精神異常者扱いされて破滅するみたいなことになる。

 

異世界転移物と異世界転生物は、一つの作品の中で両立する場合もある。主人公は事故で死んで赤ん坊として生まれたのだが、その世界で勇者召喚で呼び寄せられた「勇者」が存在するパターンだ。こういう場合、勇者の方は国家に取り込まれた悪役であるというパターンも有る。主人公が転生者の場合、転移者の方はまあ、年齢の差だけ経験が浅いわけだし、精神的に未熟だったりするんだよね。

 

知識チート

多くの作品がヨーロッパ中世風世界を舞台にしているため、現代日本人である主人公は数百年進んだ知識を持っている。そこで知識を活かして農業を改良する。新しい料理を普及させる。機械を作るなどして賞賛を浴びたりお金を儲けたりするパターンは多い。料理に関しては、かなりの作品で味噌醤油、米、カレーといったものを主人公は探し求めたり開発したりする。麦や豆を発酵させる味噌醤油、香辛料をブレンドするカレーはさておき、米に関しては舞台が中世ヨーロッパ風なのもあって、「たまたま野生種を発見する」「はるか異国の商人から入手」など苦労することが多いようだw。なお、「過去の転移者が普及させた」という形ですでに容易に入手可能というパターンも有る。

 

日本人しか出てこねえ

なぜか異世界に勇者として召喚されたり、転生したりするのは日本人ばかりであるパターンが多い。それについて作中人物も特に違和感を持ってはいないようだ。そして特に転移ものの場合は黒髪、黒目であることがなにかしら特殊な立場を表すことが多い。現実の中世ヨーロッパだったら黒髪も黒目も存在しただろうけど、この手の作品の中世ヨーロッパ風ファンタジー世界には、転移者以外黒髪黒目はいなかったりする。そして上でも書いたように主人公は米や味噌醤油にすさまじい執着を示す。食事時にはかならず「いただきます」と手を合わせ、食べ終わったら「ごちそうさま」と言う。主人公と親しく付き合うことになる現地の仲間たちはその動作を奇異に思ったりするが、慣れて自分たちも行うようになる。

 

奴隷

ほとんどの場合、奴隷制度が存在し、街中に奴隷商店がある。主人公は現代日本人のメンタルを持っているため、奴隷制にはいい感情をもっていないが、それが当たり前の世界で、奴隷がいなくなると経済が回らなくなることがわかっているので、あえて奴隷廃止を訴えかけたりはしない。奴隷は借金を返せなくてそのかたとして奴隷落ち、犯罪の罰として奴隷落ち、戦争捕虜で奴隷落ち、盗賊などにさらわれて奴隷に売られるなどが典型的で、最後のはファンタジー世界でも犯罪であるが、売られてしまったものは奴隷として流通し、救済されることがない場合が多い。奴隷は体に魔法で刻まれる奴隷紋や、隷属の首輪によって主人に逆らえない、逆らうと魔法で苦痛が発生し、最悪死に至る事になっている。

主人公は転生者や転移者の特殊能力を秘匿するために、裏切らない仲間が必要になって奴隷を購入する場合が多い。ファンタジー世界では奴隷は主人と一緒に食事をしないというのがだいたい常識で、迷宮探索時に囮にされたり使い潰されるような道具扱いされていて、その中で一緒に同じ食事をとらせたり、宿屋の部屋をとってベッドに寝かせたり、冒険で得た収入を山分けしたりと、普通の仲間として奴隷を扱う主人公は、奴隷にとんでもなく慕われ、奴隷から解放しようと言い出すと「私が不要になったのですか?」と泣かれるありさまである。こんな風にやたら慕われちゃうので、当然奴隷はハーレム要員として欠かせない。

 

こういう似たような設定が繰り返されることで、読者は詳細な説明がなくても「そういうものだ」と受け入れやすくなるのだが、「なろう」に慣れていないで数本作品を読むと「なんでこんな同じ設定使いまわされてるんだ??」と不思議な気分になる。シェアワールドでもないし、二次創作とも言い切れない、ちょっと不思議な感覚である。