MacのDeleteキーがなぜBackSpaceの動作なのか

WindowsユーザーがMacを使うときにひっかかるポイントとしてよく「Deleteキーでカーソルの前が消される」というのがある。そりゃBackspaceだろ、あれ?BSキーがない。なんで?となっちゃうわけだ。解決策としてはDeleteで前の文字、Fn+Deleteで後ろの文字が消されるからそれうまく使ってねということになるけど、そもそもなぜDeleteキーしかなく、それが「前の文字を消す」動作なんだという疑問は残るだろう。

 

実はLisa及び初代MacintoshMacintosh Plusまでのキーボードには「Delete」キーはなく、「Backspace」キーがあった。これがMacintosh II/SEのキーボードで「Delete」キーに置き換わったのだ。なので最初の頃、とにかく文字の編集に関しては「Backspace」の動作は後のWindowsユーザーのイメージと変わらなかっただろう。

 

ところで、もともとGUIが普及する前の「カーソル」というのは

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こんな風に「文字の上に乗ってる」ものだった。この場合「Delete」は「カーソル上の文字を削除して、間を詰める」動作が自然であろう。また、「Backspace」は「カーソルの前の文字を消して間を詰める」という動作になる。

一方、Lisa/Macintoshにおいては、プロポーショナルな文字を使う関係および、マウスで文字単位でなくピクセル単位の座標を指定するという操作の合理性から、「カーソル位置」というものが、「文字のマス目のどれか」ではなく、文字と文字の間に、縦線として置かれるようになった。これを「インサーションポイント」という。つまりこの状態では、「カーソルが乗っている文字」というものは存在しないのだ。従って「Delete」キーはその意味を失う。また、マウスボタンを一つにしたのと同じように「Delete」と「Backspace」の押し間違いで消したくない文字を消してイライラするようなオペレーションを排除し、一貫性のある動作にしようという意図もあったと思われる。その結果、Macintosh のキーボードにはDeleteがなくBackspaceが採用されたのだろう。

 

なにしろ初代Macintoshではカーソルキーさえ全廃したのである。単語の頭にカーソル置いてDeleteキーのリピートで単語を消すようなことはするな。マウスでさくっと範囲指定して消せばいいだろうということだ。また、CLIの上にGUIをかぶせたようなものではなく、テキストベースのコンソールというものが原則全く存在しない環境だったので、「ターミナル開いた時の動作」などというものも想定していなかった。

 

ところで、今言ったように、テキストでも画像でも「マウスでさくっと範囲指定」というのができるようになった。こうやってできた「選択範囲」を消すのは「編集メニュー」の「削除」や「カット」なのだが、いちいちメニュー開くより「Backspace」で消えた方が直感的なのでほとんどのソフトではこれを採用している。はて、この場合「選択範囲を消す」動作は「Backspace」なのか?選択範囲の一つ前の文字は消えないのか?(消えません)

ということで、Backspaceキーは「選択範囲を削除する場合は後退しない、なんかDeleteといったほうがしっくり来る」という、ちょっとおかしなものになってしまった。

 

さて、Macintosh登場とほぼ同じ頃、Apple IIの新機種、Apple IIcというパソコンも発売された。これはドイツ、フロッグデザインのおしゃれなキーボード一体型筐体を備え、そのキーボードには「Delete」キーが備わっていた。なぜかこっちには「Backspace」キーがついていなかった。まあ、Apple IIシリーズは昔はDelete、Backspace両方ついてなかったんだけど。

その後で出た Apple II GSはセパレート型で、キーボードとマウスのためのADBバスというのが備わり、Macintosh II /SEもこの規格を採用。キーボードとマウスはApple II GSとMacintoshで共用できることになった。

このとき、Apple IIMacのキーボードのすり合わせが行われた。Apple II にあったリンゴマークのアップルキーと、Macintoshのコマンドキーは統合され、リンゴと⌘が両方刻印されるようになった(さすがに今ではリンゴのマークは消えている)。ついでにBackSpace/DeleteキーはDeleteに統一された。まあ、「選択範囲を消す動作」に関してはこっちのほうがそれっぽいし。

 

もとからMac使ってる人間は、そもそも削除用のキーが一個しか無いので、BackspaceがDeleteになってもあんまし混乱しなかった。

 

というような歴史的理由から、いまでもMacintoshでは、「Deleteキーしかなく、しかも前の文字が消される」という仕様が残っているのである。