CG以前に特撮の瑕疵が見えなかった唯一の作品は2001年宇宙の旅だと思う

 映画の歴史において、極初期にジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」があったように、映画において特撮は重要な要素だと思う。そして、それはどうやってもチャチに見えてしまう事との格闘だった。

 

 ミニチュアセットはどうしても小さく見える。カメラを寄せて大きく見せても、ボケ具合で小さく見える。現代逆にティルトシフト撮影で近景遠景をぼかすことで実写の風景が模型に見えるテクニックが登場しているが、つまりあれである。カメラが被写体に近いと、距離のちょっとした差で大きくボケてしまう。これを解消するには、ミニチュアモデルを大きくする必要があるが、実物大にまで拡大してはミニチュアである意味がない。

 ボケをなくすためには、カメラの絞りを大きく絞る方法もあるが、それだと光が足りなくなる。2001年宇宙の旅は、その方法で露出時間を増やして解決していた。極限まで絞って、一コマの宇宙船を撮影するのに数分とかかけて撮影したのだ。担当したダグラス・トランブルが「二度とやりたくない」というほど大変だったらしい。

 

 特撮において、ミニチュアや、別撮り背景と人物を一つの画面に合成する場合、ハイコントラストのマスクフィルムを使用して、何度も光を当てて合成撮影することになる。このマスクの輪郭部分はどうしても輪郭線のようなちらちらした境界が見えてしまうので、合成は非常に難しい。スター・ウォーズの現在見られるバージョンではCG処理で消されているが、公開当時、やはりデス・スターの上を飛ぶXウィング、惑星ホスの雪原での合成など、輪郭が丸見えだった。スター・ウォーズでさえぱっとみて「ああ、合成だ」とわかる画面だったのだ。光学合成が完璧に行えるのは基本背景が真っ黒な場合に限られる。

 

 2001年宇宙の旅では、基本宇宙空間での合成しかしていないので、全く合成の輪郭は見えない。派手な爆発も避けているし、そういう「無理なことは避ける」手法もうまく駆使していたのだなあと思うのだが、それにしてもあれはほんとに何ひとつ瑕疵が見えないのだ。1968年に存在したあの映画、こと映像に関してはオーパーツと言っていい。背景が黒でない合成では、月基地に着陸するシーンでミニチュアの着陸ドック内の作業員が映っているのだが、矩形でうまくマスクを切っているので境界が見えない。

 

 いやアナログ時代の光学合成って大変なんだぜ、モニター上での位置合わせとか不可能なんだから。

 

 2001年の特撮を担当したダグラス・トランブルは、1970年代に「サイレント・ランニング」や「スターロスト宇宙船アーク」を担当していて、この辺の作品もかなりいいのだけど、やはり2001年に比べると細かいところでリアリティを表現しきれていないと思う。

 

 スター・ウォーズの特撮を担当したのは、ダグラス・トランブルの弟子のジョン・ダイクストラで、彼は後に「モーションコントロールカメラ」と呼ばれる機械とその撮影手法を「ダイクストラレックス」と名づけたのだが、まるで定着しなかった。スター・ウォーズVFX作業があまりに遅いのでルーカスにクビにされて、「宇宙空母ギャラクティカ」の特撮を担当。「スター・ウォーズのパクリだ!」と訴えられたりしてる。

 

 まあそれはさておいて、「2001年宇宙の旅」の特撮は、ほんとにまるで瑕疵が見えないのだ。SF特撮ジャンルにおいて、これはマジでありえなかった偉業で。こんな作品がこの時代に存在した事自体が恐ろしい事実なんである。CGでなんでもできる今だからこそ。あれを1960年代に実現させたことがすごいと思える。まだ見たことのない人がいたら、ぜひ一度見てほしい。